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モデルフォーマットの使い方
026_モデルフォーマットの使い方
株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法  ブログNo.005~025(リンク)まで、1)売上分析、2)収益性分析、3)バランスシート分析、4)バリュエーション分析と企業価値評価に必要な事項を一通り網羅的にご紹介しました。今回は、コチラで無料一般公開している業績モデルフォーマット(Excel)の使い方をご紹介致します。「なんだか難しそう」、「膨大な時間がかかりそう」といった所感を持たれるかもしれませんが、本モデルフォーマットを使うことで、 通期10期、四半期8~16期分の業績モデル整備を計2~3時間で完了 直近通期実績の入力のみで財務三表が連動した5ヵ年の業績予想を自動生成(ただし、最低限、売上高と営業利益の予想値は自身で修正する必要有) 作成した業績予想に応じたDCFバリュエーション及び理論株価(目標株価)を自動算出 PL、BS、及びROEなど主要財務指標の推移を視覚的に把握するためのチャートを自動生成 することができ、企業分析にかかる時間を大幅に短縮化することが可能です。  多少の慣れは必要ですが、株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者がそのノウハウを詰め込んだフォーマットですので、是非一度ご利用してみてください。企業分析のやり方・流れはもちろん、財務三表の回し方も自然と理解できるようになるかと思いますので、投資銀行や戦略コンサルへの就職・転職を検討されている方にも、勉強資料としてご活用頂ければと思います。 1.各Sheetの概要  モデルフォーマットをダウンロードしファイルを開くと、①How to use、②Format、③Model、④Chart、⑤Cor tax sim、⑥DCFといった計6つのsheetが確認できるかと思います。それぞれの役割・機能は以下の通りです。 <①How to use>  本モデルフォーマットの、①目的と免責事項、②業績モデルの作成手順表、③テンプレートの前提条件と主な留意事項、を記載しております。基本的に、②業績モデルの作成手順に沿うことで、モデル整備及び業績予想、チャート、DCF表の作成が完了しますので、本資料を指針に作業を進めてください。 また本フォーマットは、予想期の財務三表を連動させることや、自動的にDCFバリュエーションを実施するためにいくつかの前提条件を設定しております。一般的な前提条件を設定しておりますが、適切な企業価値評価のためにも一度③テンプレートの前提条件と主な留意事項は目を通し、必要に応じてフォーマットを修正してください。 <②Format>  会社名や証券コード、決算期、法定実効税率、業績モデルで利用する単位(千円、百万円、十億円)、その他単語表記を設定するためのsheetです。法定実効税率は有価証券報告書に記載があります(No.18_収益性分析③で説明しておりますので適宜ご参照下さい)。 <③Model>  公表されている会計数値等を入力・整備し、業績予想を作成するための、本ファイルのメインsheetです。詳細は後述します。 <④Chart>  各会計数値やKPIを視覚的に把握するためのチャート作成sheetです。PL、BS、及びROEなど主要財務指標の推移チャートが自動生成されます。また、Model sheetと同様の列構造としておりますので、自身でチャートを追加作成する際にも既存チャートの作成方法を例に、本sheetをご利用いただくと作業が効率化できます。 <⑤Cor tax sim>  法人税額をシミュレーションするための、③Model sheetの補完sheetです。繰越欠損金や損金不算入項目等の調整が可能です。同論点は「No.18_収益性分析③」も参照ください。また、重要な留意事項がありますので①How to useの主な留意事項もご確認下さい。 <⑥DCF>  作成した業績予想に沿ったDCFバリュエーション及び理論株価(目標株価)を自動算出しているsheetです。初期設定では、以下の前提条件のもと算出されるフォーマットとなっておりますので、予めご留意頂くとともに、必要に応じて前提条件を変更下さい。なお、予想期間は1~5期の5パターンをご用意しております。 ターミナルバリュー算出時のFCFはNOPAT(=営業利益×(1-法定実効税率)による簡易計算)を参照 割引率=税引後WACC(エクイティコストはCAPM参照※) リスクフリーレート=1.0% リスクプレミアム=6.0% ベータ=1.0倍 有利子負債コスト=1.0% WACC算出時のエクイティ-デット構成比=直近通期実績構成比 永久成長率=0.0% FCF現在価値の他、価値算出に織り込んでいるのはネット有利子負債(現預金、有利子負債)のみ(その他調整項目用の入力フィールド有) ※筆者は「CAPM」と表記することに違和感があり、「マーケットモデル」と表現するのが適切ではないかと考えていますが、確認できる限り全てのDCF説明資料でCAPMと説明されているので今回は本表記とします。「CAPM」は一定の強力な条件を前提とした際に完全に理論的に導かれる理論式ですが、その証明のために必要な前提条件を実務では想定していませんし、ベータ値はヒストリカルベータを参照することが多いので、単純な単回帰式の「マーケットモデル」を適用したと表現する方が正確な気がします。ご興味ある方は、CAPMの概念や前提条件に関しては「ファイナンス論-入門から応用まで(大村敬一、有斐閣ブックス)」を、証明式については「企業価値評価-バリュエーションの理論と実践(マッキンゼー・アンド・カンパニー)」の巻末補足資料(筆者が見たのは大分昔ですので今の版でも掲載されているのかは確認していません)をご参照下さい。CAPMの証明はA4紙1-2枚で完了するほどシンプルですので、一度自身で手書きで解いてみると勉強になると思います。 2.③Model sheetの構造  ③Model sheetは以下図のような構造・配置となっております。利用するセルの多くは既にセル内に計算式が入力されており、使い方を誤るとフォーマットが不具合(バランスシートの貸借が一致しない、セグメント情報等入力欄と損益計算書入力欄で営業利益が不一致している等)を起こすことがありますので、ざっくりで構いませんので必ず事前に全体構造をご理解ください。 【Model sheetの全体構造】 出所:筆者作成  約400行×60列で構成されており、行方向では上部より順に、1)セグメント情報等、2)損益計算書、3)主要財務指標、4)貸借対照表、5)キャッシュフロー計算書の入力・整理フィールドを設けております。また、1)2)に関しては、決算短信など四半期累計値が開示される資料と、決算説明会資料など単四半期値が開示されることの多い資料の双方があるため、単・累で入力フィールドを分けております。一方、列方向では左部より順に、1)項目名(単位含む)、2)通期業績、3)四半期業績、を時系列で入力・整理する形式としております。  この内、業績モデル作成者が決算短信や有価証券報告書、決算説明会資料、Fact bookなどを見て会計数値を入力する必要があるのは、基本的に「黄色ハイライト」されているセルとなります。具体的には、①損益計算書の通期実績入力欄(単四半期入力用側)、②貸借対照表の通期実績入力欄、③キャッシュフロー計算書の通期実績入力欄、④損益計算書の四半期実績入力欄(累積四半期入力用側、4Q累積は入力不要)、⑤貸借対照表の四半期実績入力欄(4Q末は入力不要)、⑥財務指標入力欄(株数・EPS・DPS・設備投資額など一部のみ、大半の項目は自動計算済)、となります。損益計算書の残りのフィールドはその他の数値入力でもって自動計算・反映される作りとなっております。  セグメント情報等の最上部の入力フィールドは、調査対象企業次第で入力・整備すべき項目が千差万別で、ある程度、業績モデル作成者が自身でフォーマットを改変する必要があります。ただし、そのファーストステップは決算短信末尾等に掲載されているセグメント情報や、有価証券報告書に掲載されている原価・販管費明細の入力・整備であり、その開示パターンは損益計算書と類似しておりますので、同様の入力ルールで一般的な明細項目の入力フィールド⑦⑧を予め設けております(詳細は実際にModel sheetを見て頂くのが望ましいです)。 3.③Model sheetの入力方法  本フォーマットは、実績入力欄であっても、中分類やその他のセルに計算式が入っている点が一つの特徴です。例えば貸借対照表であれば、以下図の通り、資産合計・流動資産といった大項目は値入力フィールド(黄色ハイライト)となっておりますが、その次の中分類である現預金・売上債権・棚卸資産は計算式となっており、更にブレイクダウンした明細項目(初期的にはAAA、ZZZ等と仮表記)は値入力フィールドとなっております。 【貸借対照表のフォーマット(初期状態)】 出所:筆者作成  これは、多くの上場企業で財務三表が連動した業績予想を自動生成するために、財務項目を標準化・コントロールする目的で設けている仕組みです。実際には、以下図のように必要な明細項目を行追加してモデル整備頂くこととなります。 【貸借対照表のフォーマット(入力後例)】 出所:筆者作成  この際、①明細項目を行追加する際はZZZの上に行追加する、②ZZZの行は利用しない、ことを推奨します。中項目の集計計算(sum)の範囲をAAA~ZZZ行で指定しておりますので、AAAとZZZの間に行追加頂くことで自動的にsumの範囲に入り、集計される仕組みとしているためです。  また、実績入力後や業績予想作成後には、必ずモデルとして整合性が確保されているかをご確認下さい。具体的には、①セグメント情報等欄と損益計算書欄の営業利益が一致しているか(初期状態では65行目にCHECK行を設置)、②貸借一致しているか(同350行目)、③貸借対照表とキャッシュフロー計算書の現預金残高は一致しているか(同407行目、実績は定期預金など定義の違いからズレてしまう場合有、ただし予想期はゼロとなるようフォーマットを作成している)が、全てゼロ又は限りなくゼロに近しい値であるか確認下さい(会計数値は基本的に表示単位以下切り捨て表記ですので、1~2程度はズレてしまうことがあります)。 4.補論:CFはPL・BSが十全に理解できていれば追加で確認する必要性は高くない  「キャッシュフロー計算書の分析や説明をここまで一切受けていませんが…?」といった読者の方がいらっしゃるかもしれません。損益とキャッシュの動きは多くの点で異なる上、黒字倒産が一時期問題となったこともあり、2000年3月期からキャッシュフロー計算書の開示が義務付けられております。ただし、結論から言ってしまうとCFの動きはPLとBSからほぼ複製できてしまうため、PLとBSの動きをしっかり把握していればCFを個別に確認・分析する必要性は高くありません(本モデルフォーマットでは間接法によりキャッシュフロー計算書の予想を自動生成する作りとしております。セル内の計算式を辿っていただくと、PL及びBSの予想値を前提にどのようにCF計算書の予想を作成しているか把握頂けます。)。PLやBSでは開示されないようなニッチな財務項目がCF計算書では開示されていることがあるので、例えば、「その他流動資産の増減が歪だが明細開示が無く分からない」といった時は営業CF明細を見ることで解決の糸口が見つかるかもしれませんし、倒産リスクのありそうな上場企業を分析する際には最も重要な開示資料となりますが、キャッシュの動きを緻密に確認しなければならない企業でない限りPL・BSの動き方から推察できるレベルのCF理解で十分だと思います。財務三表の関連性を提示できないとこの主張は成り立ちませんので、敢えてここまで一切触れていませんでした。  以上、今回はコチラ(リンク)で無料一般公開している業績モデルフォーマットについてご紹介しました。本稿に記載されていない使い方については、同フォーマット内のHow to use sheetをご参照下さい。慣れるまでは多少時間が必要ですが、筆者が何人かの協力者(実務経験なし、会計知識も最低限のみ)に利用してもらってみたところ、概ね3~5社程度モデル整備すると、基本的な会計知識の習得を含め使いこなすことが出来るようになるようです(当然、分からない会計単語や、売上債権には何が含まれるのか?など最低限の会計知識を作業しながら確認・勉強する必要はあります)。最初は習得ハードルが高そうに見えますが、必ず自身の資産になりますので、一度根気よく使ってみてください。 ■【広告】 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2022.12.03
バリュエーション分析のやり方
025_バリュエーション分析④
株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法  前回(リンク)はPBRやNAV倍率といった解散価値法について、その実務的な見方・使い方をご紹介しました。今回は、DCFについて、特にセカンダリーマーケットにおける立ち位置や使い方をご紹介します。なお、DCFの計算方法自体は(多少の違いや厳密な意味での理論的整合性は兎も角として)世の中に説明資料が溢れており、検索エンジンで調べれば似たような説明がいくらでもヒットしますので、本稿では割愛し、DCFの計算方法自体はご存じであることを前提に話を進めます。 1.セカンダリーマーケットではDCFによるバリュエーションは最終手段  いきなり身も蓋もないですが、DCFは設定が必要な変数が多い(=バリュエーションした者の恣意性が多分に含まれる)ため評価の確からしさを正当化しにくく、セカンダリーマーケットではあまり参考にされない評価手法です。「DCFを用いて算出された目標株価は基本的に参考にしない」と豪語する機関投資家の方・機関もいらっしゃるほどです。  PERとDCFの変数を比較してみましょう。まずPERですが、現在株価が割高か割安か判断するための理論株価(目標株価)を導出するのに必要な変数は、①基準期のEPS、②目標とするPER(マルチプル)の2点です。それぞれどのように設定するかといった論点はありますが、所詮2変数ですので、同業他社や過去比較がしやすく、相対感・客観性を確保しやすいと言えます。  一方、DCFに際して必要な変数は実に多岐に渡ります。以下図は筆者がよく使用するDCFフォーマットですが、①何期先の業績予想をターミナルバリュー算出の基礎とするか(何期先までの成長又は業績予想をバリュエーションに際して織り込むか)、②リスクフリーレート、③リスクプレミアム、④ベータ、⑤有利子負債コスト、は何を前提とするか、⑥エクイティとデットの構成比はどう決定するか、⑦永久成長率はゼロなのか0.5~1.0%程度の持続的成長を織り込むのか、挙句には⑧そもそも割引率は税引後WACCでいいのか、⑨ターミナルバリュー算出時のフリーキャッシュフローは何を参照するのか(NOPATなのか別の前提を置くのか)、といった問題が出てきます。 【A社の5ヵ年予想DCF】  では、一例として①だけ条件を変更してみましょう。上図では5ヵ年分の高成長を織り込むDCFを適用し目標株価(理論株価)28,350円と算出されましたが、3ヵ年分の成長しか織り込まない場合は以下のようになります。 【A社の3ヵ年予想DCF】  予想期間を5→3年としただけで、その他の条件は全く同じですが、目標株価は19,550円(約2/3)まで低下してしまいました。これが「DCFは恣意性が高い」とされる理由です。そのため、「PERやPBRでは、多少変数を修正・適正化したり基準期を先送りしただけでは対象企業のポテンシャルを十全に反映することは困難である」といった場合(5年10年といった長期スパンで2桁の利益成長が続くと見込まれる超高成長企業や、医薬品・ゲームなど1つのプロダクトで大きく利益水準が変わり、また、その推移が基本的に不連続となる企業等)にのみ、最終手段として用いるのが無難です。 2.DCFを使ってもPERやEV/EBITDAによるダブルチェックは必須  致し方なくDCFを用いバリュエーションしたとしても、例えば「理論株価を5期先のEPSで除算すると、結果としてPER何倍で評価していることになるか?」といったダブルチェックは不可欠でしょう。例えば、上記A社のケースでは実効税率30.6%を前提とすると、EPS及びBPSは以下のようになります。 【A社の業績予想】  27/3期のEPSは2,046.71円ですので、5ヵ年DCFで算出した目標株価28,350円で逆算したとしても、PER13.9倍で評価していることになります。日本株の平均PERは13倍ですから、一概に割高評価しているとは言いにくい水準だと思います。ただし、これは①売上高が22/3期の100億円から27/3期には500億円になること、②同時に収益性改善が進み営業利益は5億円→295億円まで急拡大することを前提とした場合です。「いくら高成長企業でも現時点でそこまでは織り込めない、売上高360億円、営業利益190億円が関の山だろう」と考えれば、25/3期の予想EPS1,318.22円が基準のEPSになるでしょうし、その場合は日本株平均のPERを乗算すると目標株価は17,000円程度にしかなりません。このように、DCFでは「どこまで収益拡大を織り込むか?(ターミナルバリュー算出時点の基準収益及びFCF)」が極めて重要な指標になります。  また、高成長が期待される企業の株価は、このように相当先の期の業績予想を基準に株価形成されているケースが多いため、足元業績が少し変わるだけで株価は大きく振れる可能性があります。例えば、年率50%の営業利益成長が5ヵ年継続すると見込まれる企業は、営業利益が5ヵ年後に7.6倍(=1×1.5^5)まで拡大することが株価に織り込まれている可能性がありますが、仮に決算発表等で成長減速が確認され、成長率が年率40%に低下すると同5.4倍(=1×1.4^5)まで低下しますので、それだけで株価が約30%(≒(5.4-7.6)÷7.6)下落しても何ら違和感はありません。もちろん逆もしかりですので短期的に大きく株価上昇する(=稼げる)可能性もありますが、安定した資産形成を志向するのであれば、このような銘柄への投資比率は低くしておくのが無難でしょう。  以上、今回は、DCFのセカンダリーマーケットにおける立ち位置や使い方をご紹介しました。かなり駆け足ではありますが、以上をもって本ブログで1)売上分析、2)収益性分析、3)バランスシート分析、4)バリュエーション分析と、企業価値評価に必要な事項を一通り網羅的にご紹介したことになります。次回以降は、弊社で無料一般公開している業績モデルフォーマットの使い方をご紹介します。個人投資家一人ひとりが、適切な知識でもって自身で企業の業況やバリュエーションを理解し、納得した資産形成をするための一助となれば幸いです。 ■【広告】 企業業績や株式投資について情報・意見を交わし、自身の資産形成に活かすことのできるリサーチプラットフォーム「Ishare」はコチラ(https://ishare-emh.com/)です。専門的なリサーチレポートの閲覧や執筆者とのディスカッション等が可能です(一部有料)。合わせてご利用をご検討下さい。 ■業績モデルフォーマットをコチラ(https://corporate.ishare-emh.com/service/)で無料公開しております。企業分析の際には是非ご利用をご検討下さい。 よろしければ以下をクリック下さい↓↓↓
2022.11.19
バリュエーション分析のやり方
024_バリュエーション分析③
株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法  前回(リンク)は株式市場で最もオーソドックスな評価手法であるPERについて、その見方・使い方をご紹介しました。今回は、PBRやNAV倍率といった解散価値法について、その実務的な見方・使い方をご紹介します。 1.解散価値法は1.0倍が基準  PERやEV/EBITDAといったフローの財務指標を基に算出する継続価値法に対し、PBRやNAV倍率はストックの財務指標であるバランスシートを参照している点が大きく異なります。仮に資産を全て現金化し、負債を全て返済・解消した場合、株主(親会社株主)の持分はどの程度になるか?といった考え方に基づきますので、マルチプルは1.0倍の評価が基準となります。株価をBPS(簿価ベース)で除算した指標がPBR、BPSを時価ベースに修正した1株当たりNAVで除算した指標がNAV倍率です。  なお、算出にあたって参照するのは「純資産」ではなく「自己資本」です。以下の図(例として三井不動産のBSを参照)の通り、純資産の部は基本的に「株主資本」、「その他の包括利益累計額(評価・換算差額等の表記の場合有)」、「新株予約権」、「非支配株主持分」の4項目から構成されますが、このうち「新株予約権」と「非支配株主持分」は、名称から推察できる通り「親会社株主持分(自己資本)」ではありませんので評価に際しては除外する必要があります。検索エンジンで「BPS」と調べると、「BPS(1株当たり純資産)」との表記が並ぶので誤解しがちですが、バリュエーションに際して参照すべきは「1株当たり純資産」ではなく「1株当たり自己資本」です。 【三井不動産のBS(抜粋)】 出所:三井不動産IR資料  また、自己資本を1株当たりに変換する際には、期末発行済株式数から自己株式数を除外する必要があります。株主資本の内訳として自己株式はマイナス勘定で反映されておりますので、平仄を合わせなければいけません。 2.解散価値法は継続価値法と合わせて確認しよう  それでは、実例を見てみましょう。前回PERの説明をした際に参照した総合型フィットネスクラブの運営大手であるルネサンスとセントラルスポーツについて、今度はPBRで見たバリュエーション分析を行います。今回も前回同様、①足元の同業他社マルチプル、②その推移、の2ステップで確認します。  まず、ルネサンスのPBRを算出しましょう。22年7月末の株価956円に対し、決算短信の表紙及び2ページ目(以下図)を確認すると、22/3期末の自己資本が10,318百万円、期末発行済株式数(自己株式を除く)が18,888,294株(=21,379,000株-2,490,706株)ですので、PBRは1.75倍(=956円÷(10,318百万円÷18,888,294株))となります。 【ルネサンスの自己資本と発行済株式数】 出所:ルネサンスIR資料  22/3期末実績のBPSをもとにPBRを算出しましたが、PER同様、進行期など将来時点のBPSを参照しても構いません。①自己資本及びBPSはほとんどのケースで会社計画値が無いこと、②一般的に株価指標ツール等では直近実績基準で算出されたPBRが掲載されていること、から今回は実績ベースで説明を統一します。  同様にセントラルスポーツについても算出してみると、22年7月末の株価が2,569円、22/3期末の自己資本が23,529百万円、期末発行済株式数(自己株式を除く)が11,200,639株(=11,466,300株-265,661株)ですので、PBRは1.22倍となります。 【セントラルスポーツの自己資本と発行済株式数】 出所:セントラルスポーツIR資料  COVID-19影響で業績が大きく落ち込んだとはいえ、2社共にPBR1.0倍を下回ってはおりません。前回見た通り、22年7月末時点のPER(23/3期会社計画基準)はルネサンスが32.8倍、セントラルスポーツが18.7倍であり、過去のPERの平均値14倍を大きく上回るバリュエーション評価となっておりますが、株式市場は、①COVID-19影響からの回復を踏まえると、中長期的には、少なくとも23/3期会社計画以上の収益水準を期待できる、②22/3期時点ですでに赤字から脱却しており、資産の減損などによる自己資本の毀損リスクは低く、少なくともPBR1.0倍以上の評価は可能そうだ、と見ている可能性がありそうです。それでは、次にヒストリカル推移を見てみましょう。 【ルネサンスとセントラルスポーツのPBRの推移】 出所:各社IR資料より筆者作成  COVID-19流行初期の20年は一時的にPBR1.0倍を下回る局面があった(結果として21/3期は多額の減損損失等を計上しているので、ある程度整合的な評価と言えそうです)ものの、それ以外の期間はPBR1.0倍を大きく上回る評価となっております。PERの過去推移が14倍を基準に極めて安定的だった(下図参照)のに対しPBRの推移は1.0~3.0倍のレンジで大きく前後しており、本例に関して言えば、「PBR1.0倍を下限に、基本的にフローのバリュエーション手法であるPER14倍程度で評価されてきた」と言えそうです。このように、解散価値法によるバリュエーションは継続価値法の評価と掛け合わせて確認すると俯瞰した分析に繋がります。 【ルネサンスとセントラルスポーツのPERの推移(前回資料再掲)】 出所:各社IR資料より筆者作成  「なぜ継続的に利益を出しているのに株価は解散価値以下なんだ?」と憤る経営者・IR担当者の方がいらっしゃるかと思います。その一つの回答は、「投資家の要求利回りを下回る利益しか出せていないから」だと思います。A社は、自己資本が100あるなら、X事業のリスクに鑑みるに3倍の財務レバレッジは許容でき、300の資金を原資に投資実行し効率的に資産を回転させることで毎期8の利益を出すポテンシャルがあるはずだが実際には4しか出せていない、リスク・リターンが不整合で仮にPBR1.0倍の株価で投資すると機会損失を招く(例えば、同じ事業構造・リスクを抱え8の利益を出してくれるB社株をPBR1.0倍の評価で購入した方がいい)ため、結果としてPBR1.0倍未満の低評価しかできない、といった考え方です。  フィットネス運営会社の例では現状PBR1.0倍が下限として機能しているように見えますが、仮に将来的に資本効率が低下した場合には、PBR1.0倍を下回る評価に甘んじる可能性も否定できません。自己資本が拡大しても収益水準が拡大しなければ、いずれPER14倍で評価した理論株価とPBR1.0倍で評価した理論株価が逆転する時が来るでしょう。「利益の蓄積及び自己資本の拡大に応じた収益水準の拡大が実現できないのであれば、内部留保としてため込まず積極的に株主還元(配当・自社株買い等)すると共に自己資本の水準を引き下げ、事業リスクに見合った適切なバランスシート構造をキープして欲しい」、これが投資家の声であり、資本効率(ROE)を意識した経営が叫ばれる所以の一つです。 3.時価評価に際して主に確認すべきは賃貸等不動産と投資有価証券  理論上、全ての資産項目で簿価と時価は乖離し得ますが、実務的に評価が大きく変わり得る項目は①賃貸等不動産、②投資有価証券の2点です。詳細な説明は「バランスシート分析③」の項で説明しておりますので、未読の方は是非ご確認ください。なお、1株当たりNAV=BPS±1株当たりの時価簿価差額ですので、計算自体は難しくないかと思います。  以上、今回は、PBRやNAV倍率といった解散価値法について、その見方・使い方をご紹介しました。解散価値法は一部例外を除き基本的には補完的に参照されるバリュエーション手法であることを意識頂ければと思います。次回は、DCF法について、セカンダリーマーケットでの立ち位置、使われ方に関してご紹介します。 ■【広告】 企業業績や株式投資について情報・意見を交わし、自身の資産形成に活かすことのできるリサーチプラットフォーム「Ishare」はコチラ(https://ishare-emh.com/)です。専門的なリサーチレポートの閲覧や執筆者とのディスカッション等が可能です(一部有料)。合わせてご利用をご検討下さい。 ■業績モデルフォーマットをコチラ(https://corporate.ishare-emh.com/service/)で無料公開しております。企業分析の際には是非ご利用をご検討下さい。 よろしければ以下をクリック下さい↓↓↓
2022.10.27
FAQ
よくあるご質問
Q.
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Q.
どのような利用プランがありますか?
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Q.
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Q.
フリーアナリスト/フリーアナリストレポートとはなんですか?
Ishare上で企業・業界等の調査レポートを執筆・投稿するユーザー、及びその調査レポートを指します
Q.
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Q.
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