企業分析のやり方
2022.01.24
005_企業分析①

株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法①

Introduction

 企業分析の第一歩は、”事業を知る”ことにあります。売上高や営業利益といった会計情報をExcelで整理することは、ファーストステップではありません。本稿より、複数回に分けて「企業分析のやり方」のノウハウを執筆しますが、”なんだか表面的な理解に留まっている気がする”と感じたら、”事業を知る”ことを意識して会社資料等を読み直してみてください。注1

注1:本シリーズは、分析対象が国内上場企業且つ日本会計基準適用企業であることを前提に、多くの企業で活用できる標準的な分析メソッドを紹介致します。個社事由により必ずしも最適な分析手順とはならないこと、未上場企業の場合は参考にできない点があることを予めお含みおきください。

1.まず見るべきは、有価証券報告書の「事業の内容」

 有価証券報告書注2の「事業の内容」は、”事業を知る”ことを目的とした場合、多くの企業において極めて秀逸な資料です。①企業の理念やビジョン、②提供しているサービスの概要(セグメント別の詳細記載含む)、③属する業界に関する環境認識、④”事業系統図”を用いたお金やサービスの流れの説明、等を網羅的且つ正確に掲載しているケースが多いからです。

 「事業の内容」は、”基本的に文章情報で図表が少なく視覚的に分かりにくい”、”A4サイズで2-3枚から時に10枚ほどにわたる資料で最初に見る資料としては重い”、として嫌煙されがちです。ただし、ここで安直に各上場企業のIR資料室にある「決算説明会資料」を見ると、これは事業の網羅性や正確性よりも”資料作成時に投資家に知ってもらいたい事”にフォーカスした資料であるケースが多く、事業理解が偏る可能性があります。網羅的且つ正確に”事業を知る”ためには、まず有価証券報告書の「事業の内容」を読み、理解の土台とすることを心がけてみてください。以下では、「事業の内容」を効果的に読むためのポイントを2点紹介します。

注2:企業のIRページで開示されていることが一般的ですが、EDINET(EDINET (edinet-fsa.go.jp))でも検索できます。新規上場企業であれば、”Ⅰの部”と呼ばれる「新規上場申請のための有価証券報告書」が該当し、日本取引所グループの新規上場会社情報(新規上場会社情報 | 日本取引所グループ (jpx.co.jp))のページから検索が可能です(日本取引所グループ以外の地方の証券取引所への単独上場ケースを除く)。

2.“何をしているか”は、一字一句逃さず読む

 有価証券報告書の「事業の内容」は文字が多くななめ読みしがちですが、事業として”何をしているか”は一字一句逃さず読むようにしてください。例えば、「弊社は不動産事業を営んでおります。」といった記載は、有価証券報告書の”事業の内容”には基本的にありません。不動産事業といっても、開発・売買・賃貸・仲介など様々あり、”何をしているか”があいまいだからです。段階を追って文言を修正してみます。

「弊社は不動産の管理事業を営んでおります。」

→具体的にどのような不動産を扱っているか分かりません。

「弊社は東京都23区内の中小型のオフィスビルを中心とした不動産の管理事業を営んでおります。」

→”管理事業”にどこまでの業務を内包しているのか分かりません。

「弊社は東京都23区内の中小型のオフィスビルを中心とした不動産の管理事業として、賃貸仲介・売買仲介・入居者管理・ビルメンテナンスなどのサービスを提供しております。」

 →ここまで説明されてようやく事業の概要が分かります。この会社の場合、不動産の管理事業として、入居者管理やビルメンテナンスといった狭義の意味での”管理”に加えて、周辺事業としての賃貸・売買仲介も広義の意味で”管理”事業に内包していると理解できます。

 今回の例で言えば、売上高に占める売買仲介事業の構成比が過半を占め、売買仲介の件数や単価により短期の収益が大きく変動する事業構造であることが実態だったとしても、不動産の”管理”事業を営んでいるとの文言から入居者管理等の月額固定報酬が柱で収益は安定的であると誤解する可能性があります。これが、”何をしているか”は、一字一句逃さず読むことを推奨する理由です。

3.事業系統図で、”誰に、何を、どのように提供しているか”を整理する

 有価証券報告書の「事業の内容」の末尾には、企業の事業運営に関わる主なプレイヤー(顧客や協力会社等)をビジュアル的に整理した事業系統図があります。当該資料をもとに、”誰に、何を、どのように提供しているか”を整理しましょう。

確認すべきポイントとしては、

  • 顧客は法人か個人か?また企業規模や年齢層等の具体的な対象顧客は誰か?
    →業界分析と掛け合わせ、売上高のポテンシャル等を推察するため
  • 商品・サービスは、売り切り(売買契約)なのか月額料金等の継続サービスなのか?
    →顧客及び売上高の安定性等を推察するため
  • 協力会社には何を委託しているのか?
    →内製化・外製化している機能を知り正しく収益構造を把握するため
  • 協力会社への支払金額は固定制か変動制か?
    →限界利益率を把握し売上変動に伴う利益変動の振れ幅を推察するため

等が主に挙げられます注3

注3:有価証券報告書の「事業の内容」や事業系統図だけでは、これらを正確に把握することは困難なことが多いです。その場合は、次回以降に取り上げるIR資料の確認や、会社へのヒアリングを通じて不足情報を補ってください。

Conclusion

本稿では、

  • “事業を知ること”が企業分析の第一歩
  • まず見るべきは、有価証券報告書の「事業の内容」
  • “何をしているか”は一字一句逃さず読む
  • 事業系統図で”誰に、何を、どのように提供しているか”を整理する

ことをお伝えしました。

次回は、有価証券報告書の「事業の内容」以外に”事業を知るため”に有用な資料をご紹介します。

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