収益性分析のやり方
2022.09.02
016_収益性分析①

株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法

 前回(リンク)まで計6回にわたり売上分析のやり方をご紹介してきましたが、以降は損益計算書のやや下に目を落とし、売上原価や販管費の分析の仕方について、図表を用いたケーススタディで、視覚的に分かりやすくご紹介します。

1.原価明細や販管費明細で主な費用科目を把握しよう

 まず、調査対象企業の主な費用が何かを確認しましょう。製造業であれば鉄・アルミなどの素材をはじめ、工場設備を稼働するための労務費や水光熱電力費、設備自体の減価償却費が主な費用になることが多いです。卸売・小売企業であれば仕入れた商品や運送費がかかるでしょうし、Webサービス企業であればサーバー費用やソフトウェア償却が一定あるでしょう。また、どのような企業でも管理部門の人件費やその他一般管理費が一定額かかります。企業や業種によってどのような費用がどの程度計上されているかは千差万別ですので、必ず有価証券報告書の原価明細や販管費明細を確認しましょう。詳細はコチラを確認下さい。

2.売上高を100%とした積み上げ棒グラフで推移を確認しよう

 費用構造及びその変遷を把握する手段として、まずは売上高を100%とした積み上げ棒グラフを作成してみることをオススメします。例えば、エキスパートネットワークサービスを手掛けるビザスク(4490)の場合は以下のようなグラフとなります。

【ビザスクの売上高を100%とした際の費用構造の推移】

注:21年11月に買収したColemanに係る売上費用を除くビザスク単体数値である。またM&Aに係る一過性費用を除外している。
出所:ビザスクIR資料より筆者作成

 収益性分析の際、まずは各費用項目が売上高と連動性の高い変動費なのか、売上高の増減に関わらず一定額必要な固定費なのかを把握しましょう。ビザスクの場合、費用科目は人件費や地代家賃、その他費用(販管費)といった一般的に固定費要素の強い科目が費用の大半を占め、限界利益率が高く、売上拡大が利益拡大に直結しやすい費用構造だと推察できます。実際にグラフを見てみると、①期を追うごとに営業利益率が上昇している、②その主因はその他費用(販管費)の低下である、と分かります。

 ここで気を付けたいのは、固定費要素の強い勘定科目であっても実態として変動費的に費用計上されるケースがあることです。ビザスクの場合、アドバイザー探索のための人的リソースが売上拡大に一定必要なため、勘定科目の名称上は固定的要素が強いと推察される人件費の売上比が概ね横ばいで変動費的(売上拡大に合わせて人員採用している)と分かります。

 変動費が支配的なケースも確認してみましょう。以下はフリーミアム型の電子書籍配信サービスを提供するAmazia(4424)の費用構造グラフです。

【Amaziaの売上高を100%とした際の費用構造の推移】

出所:Amazia IR資料より筆者作成

 電子書籍をコンテンツホルダーや取次業者から仕入れ販売するビジネスのため、仕入高が売上比で6割を占め、また集客のための広告宣伝費を売上比2-3割投下しております。収益性を把握する上で重要なポイントは、①如何に安くコンテンツを仕入れるか、②如何に顧客獲得効率を高め広告宣伝費率を下げられるか、の大きく2点にかかっていると推察できるでしょう。そのような視点に立つと、18/9期より仕入高比率が上昇の一途にある、広告宣伝費率は20/9期まで低下傾向にあったが21/9期に急上昇している、といったファクトが重点的に分析すべきポイントと分かります。このように、変動費の分析をする際には売上比の変化に敏感になることが重要です。

3.複数事業を手掛ける大手企業等はセグメント利益率の推移を見よう

 大手企業など手掛ける事業が複数に渡りそれぞれ収益構造が異なる場合、上記のように全社ベースで各費用項目の売上比を確認する意義は薄くなります。その場合は、セグメント毎の営業利益率(企業によっては経常利益や事業利益で作成される場合有)の推移を折れ線グラフにして業況把握しましょう。例えば、バドミントン用品をグローバルに製造・販売するヨネックス(7906)の場合、以下のようなグラフが作成できます。

【ヨネックスのセグメント別営業利益率の推移】

出所:ヨネックスIR資料より筆者作成

 セグメント別利益率の推移確認は、あくまで開示情報が限られる中での代替手段だと思ってください。収益性分析の基本は、上記のビザスクやAmaziaの例で示した通り、科目別に費用構造を把握し積み上げ式に分析することです。たとえ開示が無いとしても、各事業の主な費用科目や特性、限界利益率の高低などをビジネスモデルから推察し、マージンの上昇(低下)背景を正確に把握しようと努めることが肝要です。

 以上、収益性分析のファーストステップをお示ししました。次回は、収益性分析を掘り下げる際、比較的業界横断的に応用が効きやすい分析メソッドをいくつかご紹介します。

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