株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法
前回(010_売上分析のやり方①)は、売上分析のファーストステップとして売上構成比を円グラフで、売上推移を積み上げ棒グラフや折れ線グラフで把握する方法をご紹介しました。今回は、企業分析に際して重点的に把握すべきセグメント等が分かった後、どのようにドリルダウン分析すればいいか、図表を用いたケーススタディで、視覚的に分かりやすくご紹介します。なお、業績モデルの整理の仕方はコチラを、モデルフォーマットはコチラの中ほどをご確認下さい。
1.単価×数量にブレイクダウンできないか確認しよう
重点的に分析すべき売上項目(セグメント別・国別・カテゴリ別など)が分かったら、単価×数量に分解できないか開示資料(決算説明会資料や決算短信の「経営成績に関する説明」の文章情報等)を確認しましょう。単価であれば競合他社と比較した価格優位性、数量であれば業界全体の需要に対してのシェアなど、それぞれ比較検証する際の見方が異なるためです。また、売上インパクトは同じだとしても、単価上昇に依るのか、数量増加に依るのかによって利益インパクトが異なるケースが多く、正確な収益分析に際して欠かせない見方となります。
2.2軸グラフで単価・数量の推移を把握しよう
単価×数量にブレイクダウンできると分かったら、2軸グラフ化して単価・数量を対応させつつ推移を把握してみましょう。以下は、総合型フィットネスクラブを全国展開するルネサンス(2378)のフィットネス部門の会員数と単価の推移です。
【ルネサンスのフィットネス会員数・単価の推移】
出所:ルネサンスIR資料より筆者作成
全体感として、単価は概ね横ばい推移なのに対し会員数は右肩上がりで、過年度の売上拡大の主因は数量増だったと分かります。この結果から、数量増の背景は①市場全体のフィットネス会員数の増加、②価格やサービス等の優位性によるシェアアップ、のいずれに依るのか原因追及してみるといった次の分析アクションが取りやすくなります。①施設数の増加、②1施設当たりの利用者数の増加、といったブレイクダウンの仕方もあるでしょう。また、①COVID-19影響で休会者が増えたため平均単価が一時的に下落したが既に従来水準に回帰している、②会員数はさらに落ち込み10年強前の水準に戻ってしまっている、などモメンタムに関しても捉えやすいです。
3.店舗展開する企業の場合は店舗数×1店舗当たり売上高に分けてみよう
飲食店やアパレルなど店舗展開する企業の場合は、店舗数×1店舗当たり売上高に分けて推移を確認するのも一案です。例えば、スポーツ用品の小売事業を全国展開するヒマラヤ(7514)の店舗売上高を店舗数と1店舗当たり売上高に分解すると以下図のようになり、①2010年代前半は店舗増を図った一方で1店舗あたりの売上高は下落し店舗効率が悪化していた、②2010年代後半は店舗の統廃合による合理化を進めたため店舗数は減少したものの1店舗あたり売上高は改善の一途にある、といったことが推察できるチャートができます。このような推察が立てば、ではマージン(営業利益率等)動向はどうなのか?といった次の分析ステップに進みやすいと思います。
【ヒマラヤの店舗数と1店舗当たり売上高の推移】
出所:ヒマラヤIR資料より筆者作成
4.似通ったセグメントの単価・数量は横配置して一挙に把握しよう
セグメント情報別に単価×数量の定量情報があり、またその性質が似通っている場合は、横配置したグラフを作成することで各セグメントの状況を把握しやすくなります。例えば、スキルEC大手のココナラ(4176)であれば、数量・単価共に上昇しているが、より業績をドライブしたのは制作・ビジネス系カテゴリであると分かります。
【ココナラのカテゴリ別のユニークユーザー数及び単価の推移】
出所:ココナラIR資料より筆者作成
また、小説投稿サイトを手掛け人気コンテンツのライトノベル・漫画化を生業とするアルファポリス(9467)の以下図のように、カテゴリごとの特徴(刊行点数はライトノベルの方が多いが、1刊行あたりの売上高は漫画の方が高く事業効率が良い等)が分かりやすく把握できることもあります。
【アルファポリスのカテゴリ別の刊行点数と単価の推移】
出所:アルファポリスIR資料より筆者作成
以上、売上分析のブレイクダウンの仕方をご紹介しましたが、いくら個社分析を深めても業界動向や競合比較を踏まえた理解が無ければ企業分析としては片落ちとなってしまいます。次回は、企業分析のための業界分析方法の一例をお伝えします。
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