バランスシート分析のやり方
2022.09.20
020_バランスシート分析②

株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法

 前回(リンク)は店舗運営型企業のバランスシートの基本的な着眼点や分析手法をご紹介しました。今回は、Webサービス運営事業者のバランスシートについて、インターネットを用いてスキルの供給側(個人)とスキルの需要側(法人又は個人)をマッチングするフリーランスプラットフォームを運営するクラウドワークス(3900)を例に、図表を用いたケーススタディで、いくつか分かりやすくご紹介します。

1.固定資産が少額な企業は運転資本を注視しよう

 前回同様、ビジネスモデルを踏まえバランスシートの状況(直近構成比)を把握します。クラウドソーシング最大手クラウドワークス(3900)のバランスシートは以下表の通りです。

 まず資産側を見ると、①資産の約7割を現預金が占める、②売掛金や決済代行業者の未収入金がそれぞれ1割強ある、③固定資産はほとんど無い、と分かります。非常にシンプルな資産構造ですが、なぜ42億円も現預金が積みあがっているのか、といった点は資金効率を図る上で一つのポイントになりそうだと考えられます。

【クラウドワークスのバランスシートの状況】

出所:クラウドワークスIR資料より筆者作成

 続いて負債・純資産側を見ると、①有利子負債はほぼ無くレバレッジは効いていない(利益剰余金が大きくマイナスな事から過年度は赤字体質で資金調達はデットでなくエクイティが中心だったと見られる)、②フリーランスプラットフォームに係るスキル需要側から供給側への報酬預り金等が11億円強と多額である、③一時的債務である未払金が7億円弱ある、と分かります。一度報酬金を預かるビジネスモデルであることや一定額の未払金があることから、広義の運転資本(=売上債権+棚卸資産+未収入金-仕入債務-未払金-預り金他)がマイナスで、キャッシュインが先行する構造であることが多額の現預金保有の一因になっていそうです。運転資本がマイナスとは言え、預り金相当額やリスク対応を含む事業運営上最低限必要な現預金の確保は望ましいでしょうが、42億円の現預金はやや余剰で投資や株主還元を強化する余地がありそうだと推察できます。

 なお、上記表で各運転資本項目の詳細を記載しておりますが、こちらは有価証券報告書の【主な資産および負債の内容】の項を参照しております。例えば未収入金であれば以下の開示があり、決済代行業者との取引に係るものが主であると分かります。

【クラウドワークスの未収入金明細】

出所:クラウドワークス有価証券報告書

2.バランスシート推移の分析は企業の過去の変遷を知る上でも有用

 続いて過去推移を確認します。ROEのデュポン分解(=当期純利益率×資産回転率×自己資本比率の逆数)を見ると、20/9期まで赤字体質(当期純利益率がマイナス)且つ基本的に自己資本比率が高いことから、過去は多額のエクイティをもって事業拡大するフェーズにあったと分かります。ただし、17/9→18/9期のタイミングで資産回転率や自己資本比率が不連続となっており、この背景は深堀する必要がありそうです。

【クラウドワークスの資本効率およびバランスシートの推移】

出所:クラウドワークスIR資料より筆者作成

 そこでバランスシート項目を実額ベースで確認すると、資産側は現預金およびのれん、負債側は有利子負債が拡大しており、M&Aを実施したと分かります。また、19/9→20/9期に上記項目が反転していることからM&A実施企業を売却したと推察できます(のれんの急減は減損処理の可能性もありますが、ボトムラインが過度な赤字に陥っていないことや現預金の減少を伴わず有利子負債返済が大きく進んでいるため、売却であろうとこの資料のみで推察できます)。過去、M&Aによる資金の有効活用を実施したものの既に売却したため現預金に余裕があり、次の資金活用方針が待たれる状況であると判断できそうです。

 このように、バランスシート分析は経営戦略上の大きな変化を捉え、定性分析のポイントを洗い出す上でも有用ですので、財務指標だけでなく実額ベースの変化にも着目するようにしましょう。また、Webサービス運営事業者など多額の資産投資を必要としない企業は、キャッシュが溜まりやすいビジネスモデルであるが故にM&Aによる事業深耕・領域拡大を通じ資本効率改善を図るケースが多々ありますので、保有現預金の活用方針には注視が必要と言えます(中期経営計画資料の他、有価証券報告書の【事業の状況】【配当政策】の項に記載されていることが多いです)。

 以上、Webサービス運営事業者のバランスシートの基本的な着眼点や分析手法をご紹介しました。バランスシート構造は企業・業界ごとに多種多様ですので、今後も期を見て異なるパターンをご紹介していければと思います。次回は、ピンポイントでの活用が一考できるバランスシート分析パターンをいくつかピックアップしてご紹介します。

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