企業分析のやり方
2022.01.24
006_企業分析②

株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法②

Introduction

 本稿では、”事業を知る”ことに有用な資料の一覧を紹介します。ここで意識頂きたいのは、

  • 有価証券報告書の「事業の内容」が理解の土台であり、他は不足情報を補う追加的資料である
  • 現段階では、売上高や営業利益といった財務情報はまだ意識しない

ことです。

 2点目に関しては意外に感じる方がいるかもしれませんが、筆者の経験則上、事業理解が浅く収益の背景が覚束ないまま、全社の売上高や営業利益の数字に注目することに意味はありません(分析対象の同業他社を調査したことがあり、各種資料を読み込まなくとも事業概要が推察できる場合はこの限りではありません)。注1

注1:「005_企業分析のやり方①」から順に閲覧することをオススメします。

1.“事業を知る”ことが目的の場合、「決算説明会資料」の確認は優先度”C”

 上場企業の分析をする際、ビジュアル的に分かりやすく会社情報が掲載されている「決算説明会資料」をいの一番に確認する方が多いと思いますが、”事業を知る”ことが目的の場合、確認優先度は高くありません。「決算説明会資料」は、①直近の業績実績、②今後の業績計画、③足元取り組んでいる成長戦略やその進捗状況、の報告を目的としていることが一般的で、”事業自体の説明”はほとんどされていないためです。

 では何を見ればいいのか、優先度と共に以下に列挙します。

1.優先度S:有価証券報告書の「事業の内容」
 多くの企業において極めて秀逸な資料です。詳細は「005_企業分析のやり方①」をご確認下さい。

2.優先度A:会社案内(又は企業案内・事業紹介等)
 多くの企業HPでHomeやTopの次に掲載されている会社概要ページも、”事業を知る”上で必ず確認しておきましょう。企業によっては、当該ページ内に会社案内のPDF資料を用意しているケースもありますので探してみてください。(上場企業だからといってIR資料室(投資家情報)ばかり見ていると見落としますので注意下さい。)

3.優先度A:個人投資家向け会社説明資料
 企業又は証券会社等が主催する個人投資家向けの会社説明会で用いる資料です。業績情報も一定程度掲載されていますが、当該企業を初めて知る個人投資家向けに作成される資料ですので、”事業を知ってもらう”ことに重きを置いた資料構成であることが多いです。準大手以下の企業の場合、IR資料室(投資家情報)の中に”個人投資家向け”の資料欄自体が無いケースも多いですが、ニュースリリースを遡ると意外と掲載されていることも多いので探してみてください。ただし、そもそも個人投資家向け説明会を開催していない、開催していても資料開示していないケースも一定ありますので、その際はあきらめましょう。

4.優先度A:成長可能性に関する説明資料
 企業の基本情報・事業内容・業績動向から成長戦略まで、網羅的且つビジュアル的に分かりやすく説明した資料です。東証マザーズ(グロース)に新規上場する企業には上場時の開示が義務付けられている資料であり、逆にそれ以外の企業では当該資料はありませんが、調査対象が過去数年内に東証マザーズ市場に新規上場した企業注2の場合は、是非確認しましょう。新規上場日当日朝に一般公開される資料ですが、上場前の機関投資家説明会や個別MTG(ロードショー)でもほぼ同様の資料が用いられ、専ら企業を初めて知る人(機関)に株式を購入頂くために用意している資料ですので、完成度は高いです。ただし、株式を売るためのアピールポイントが強調されやすいので、資料をニュートラルに見る意識が必要になります。
注2:2017~21年の5年間で同市場には331社が新規上場しておりますので、参照できるケースは意外と多いです。

5.優先度B:中期経営計画書
 企業が3~5年後に目指す姿を整理した資料です。昨今では中期経営計画を作成・開示する企業が大勢ですので、多くの上場企業で類似した資料が見つかるかと思います。企業の将来を見据える上では過去及び現状分析が欠かせないため、ベーシックな情報も一定程度掲載されているのがポイントです。

6.優先度B:サービスサイト(商品紹介・オンライン販売サイト等)
 調査対象が個人を顧客としている企業(BtoC企業)の場合は、サービスサイトも確認してみましょう。”何を、いくらで販売しているのか”、”販売の仕組みはどうなっているのか”がよく分かります(特に顧客単価がIR資料で開示されていないBtoC企業の場合は、サービスサイトで単価イメージを持つことが重要です)。また、無料登録が可能な会員サービス等がある場合は、実際に登録してみましょう。個人に対してどういった頻度でどのようなマーケティングを実施しているのかが把握でき、企業の強みの発見につながるかもしれません。

7.優先度B:アニュアルレポート
 株式投資家として確認したいポイントは(細かな会計情報を除いて)ほぼ網羅的に掲載されている資料です。ただし、多くの企業で50~100頁にも及ぶ資料で端から読むのは効率が悪いので、他の資料で確認できなかった不足事項を補う形で利用しましょう。

8.優先度C:決算説明会資料
 ようやく決算説明会資料の登場です。四半期や半期に一度開催される機関投資家向け決算説明会で利用される資料で、各期の決算発表日又は決算説明会の開催日にIR資料室(投資家情報)に掲載されることが多いです。”事業を知る”ことが目的の場合は、最新の”四半期”決算説明資料でなく、”通期”の決算説明会資料を見るようにしましょう。

 上記リストを見て、確認すべき資料が多いと感じたかもしれませんが、基本的に優先度”A”までの資料に目を通せば一旦OKです。2.会社案内PDF、3.個人投資家説明資料、4.成長可能性に関する資料、のいずれも無い、又は2.会社案内はあるものの理解がイマイチ、といった場合のみ、優先度”B”以下を確認してみてください。また、次回以降で紹介する財務分析の段で、決算説明会資料は確認することになるので、現段階でわざわざ見に行く必要はありません。

2.財務分析は事業に関する計数的な疑問を持ってから取り組もう

 敢えて売上高や営業利益といった財務情報を意識せず、”事業を知る”ことに特化して上記した資料を確認した方であれば、”業績を知る”上で重要であろう財務情報(セグメント別の収益や特定の勘定科目等)やKPI(数量・単価や顧客の新規-既存割合、稼働率等)が自然とイメージできていると思います。このような計数的な疑問を持って財務分析に取り組むか、多くの参考資料で書かれている通り主要財務数値・指標を作業的に整理するかでは、業績に対する理解に大きな差が生まれます。次回以降、具体的な財務分析のやり方を紹介しますが、”計数的な疑問”を持ちながら計数整理・財務分析ができているかは、常に意識してみてください。

Conclusion

 本稿では、”事業を知る”ことに有用な資料の一覧と、その優先度をご紹介しました。企業分析と聞くとどうしても財務数値に目がいきがちですが、事業を知らない限り、財務数値は企業理解に役立ってくれません。有価証券報告書の「事業の内容」を読み、上記した優先度Aの資料に目を通すだけであれば2時間で済みますので、是非実践してみてください。

次回は、財務分析の第一弾として”売上分析”のやり方を、ある企業を例に個別具体的に紹介致します。

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