株式アナリスト・経営コンサルタントとして100社超の上場企業を分析した筆者の企業分析手法⑤
Introduction
本稿では、「セグメント情報」及び営業外以下の各損益計算書項目の整理の仕方・読み方を簡単にご紹介します。「007_企業分析のやり方③」「008_企業分析のやり方④」と同様、Institution for a Global Society(4265)を例に、確認します。注1、2
注1:特段の選定理由はありません。また、本稿は当該企業の調査や投資推奨を行うものではありません。
注2:「005_企業分析のやり方①」から順に閲覧することをオススメします。
1.セグメント別開示は情報の宝庫
セグメント情報は売上同様、決算短信や有価証券報告書に掲載されております。
出所:有価証券報告書より抜粋
販管費までのデータを含め、ここまでの内容をExcelで整理すると、以下のようになります。
セグメント情報を読み解く際、
- セグメント利益は、営業利益・経常利益等のどの段階利益と対応しているか、総計数字の突き合わせ又は注釈を見て確認する。
- セグメント利益に対応するセグメント売上高は、”外部顧客への売上高”ではなく”セグメント間の内部売上高又は振替高”を含むセグメント売上高計であり、セグメント売上比の算出に留意が必要である。
- セグメント利益の調整額は、セグメントに配賦できない販管費の一部を計上することが多いが、販管費と同値で計上する企業もあり、その場合は(実質的に売上総利益までの)セグメント別収益分析と販管費分析を切り分けられるため、確認すると良い。
- 通期のセグメント情報欄には、セグメント資産、減価償却費、設備投資額(有形無形固定資産の増加額)等の重要指標の開示があるため、必要に応じてモデルに追加入力する。
等を意識するといいです。
本例では、HR事業・教育事業共に、高い限界利益率から売上増に伴う利益増幅が大きく、20/3→21/3期にかけ収益性(セグメント利益率)が大きく改善していると分かりました。また、21/3期に約47百万円の設備投資を実行しており、研究開発費の増額と合わせ先行投資を拡大していると分かります。
本例では有用性を提示できませんが、セグメント利益を分子、セグメント資産(期首期末平均)を分母にセグメントROAを算出し事業ごとの効率性を確認したり、セグメント利益に減価償却費(及びのれん償却費)を足し戻しセグメントEBITDAを算出することで、簡易的に事業別のキャッシュフロー創出力を確認することも”業績を知る”上で有用なケースが多いので、確認してみてください。
2.営業外・特損益・法人税等は特徴的事象の有無を確認
営業外以下の会計情報は決算短信や有価証券報告書に掲載されております。有報では特徴的な損益項目は注釈で詳細記載がありますので、初めて企業を分析する際は有報を見るのがいいでしょう。
例示企業の損益計算書関係項目をExcelで整理し、多少見栄えを整えると、以下のようになります。
上記より、
- 営業外では、補助金収入や仮想通貨評価益、株式交付費や為替差損等が一定計上されているが、総じて一過性損益で、継続的に業績に影響を与える科目は見受けられない。
- 特損益も一過性と見られるが20/3期の減損損失は金額が大きいため背景を確認する必要がある。
→有報の注釈を確認すると、本社資産(建物)で4,981千円、本社資産(工具、器具及び備品)で6,580千円、事業用資産(ソフトウェア)で129,561千円を減損処理したと判明した。売上原価に計上されている減価償却費が急減したのは、ソフトウェアを減損処理したことが主因とみられる。貸借対照表の資産の部を確認する際は、回収可能性が低い資産が他に無いか確認する必要がある。 - 例示企業の21/3期における法定実効税率は33.6%(有報他にて確認可能)だが、実態としては7.3%相当額のみ支払っている。過年度の税務上赤字による繰越欠損金の利用により、法人住民税均等割相当額のみ費用計上されていると見られる。過年度の赤字額が大きく、しばらくの期間は繰越欠損金による税控除が期待できるが、仮に資本金が1億円を超え大企業となった場合は、繰越欠損金の利用可能額が当該年度の所得の100分の50に制限され、税金支払いが拡大する可能性がある点に留意が必要である。
といったことが見えてきます。注3
注3:上記説明で出てきた税務関連の単語が分からない場合は、適宜単語検索して下さい。
Conclusion
本稿では、「セグメント情報」及び営業外以下の各損益計算書項目の整理の仕方・読み方を紹介しました。